Baseball Concrete Blog

主にプロ野球について、セイバーメトリクス的な考えを交えながら好きなことを書いています。

無死一塁からのバントによる勝利確率の変動

短期決戦の時期になるとバントの話がよく出ます。

セイバーメトリクスの見地からバントについては色々言われていますが、今回は勝利確率というツールを使ったグラフをひとつの参考資料として出してみたいと思います。


犠打による勝利確率変動グラフ


上記のグラフは、結論から言うと「無死一塁からバントを成功させて一死二塁になることが後攻チームの勝利の見込み(確率)をどれだけ高めるか」を点差・イニング別に表したものです。

Baseball Prospectusが発行している書籍『Baseball Between the Numbers』より、James Clickの「When Is One Run Worth More Than Two?」という論文のグラフが見やすく面白いものだと思ったので描き方は同論文を参考にしています。

もっとも同論文のグラフをそのまま載せるのでは面白くありませんので、FanGraphsが提供している「WPA Inquirer」という勝利確率を計算するツールを使って低い得点環境の数字を出してみました。

バントについては得点の見込みが低いときに用いられる戦術であり平均的な得点見込みでの計算は意味がないと論じられることが多いため、平均得点を3.0というWPA Inquirerで設定できる最も少ない値にしています。平均得点3.0というと攻撃力としてはリプレイスメント・レベルかそれ以下という感じで、2017年の規定打席到達者でいうとRC27が3.0を下回るのは巨人の小林誠司(OPS.542)のみです。

また得点の期待値を増やすか1点だけとる確率を増やすべきかという問題もありますが、これに関してははじめから勝利確率を対象とすれば基本的には悩む必要はなくなるかと思います。なお、勝利確率というのは特定のイニング・点差・アウトカウント・走者状況においてそこからチームが勝利する確率がどれだけあるかを示す数理統計的な数字です。

さて、肝心のグラフの中身ですが、縦軸がバント成功前後での勝利確率の差分を表しています。縦軸の真ん中を0にしてありますが、0より上の部分にデータがありませんので、今回の計算の前提では全てのケースでバントは勝利の見込みを減らすということになりました。もちろんJames Clickの原論文も同じ結果です。

横軸はイニングで、3本の線はそれぞれ青が後攻チーム1点リードの場合、赤が同点の場合、緑が1点ビハインドの場合を表しています(9回裏1点リードはチームが既に勝利している状態ですので当然データは存在しません)。

イニングや点差別の傾向を見ると、特に負けているときの終盤はバントによる損失が大きくなることがわかります。アウトを消費せずに出塁して得点を巻き返す必要があるのにバントでアウトカウントを増やすのは自ら「終わり」を近づけてしまうようなイメージでしょうか(James Clickは、1点負けているチームが1点をとる野球をするのはいいが犠打はそのために有効な手段ではないと論じています)。

もちろんこれは単に無死一塁から一死二塁への状況の変化が勝利確率をどう変化させるかという計算結果を示しただけですから、バントを企図して失敗したらどうなるのか、あるいは逆に守備側が焦って失策することを考えたら、といった点まで含めてバントという戦術を総合的に検討するものではありません。

今回の記事はアレコレ論じるというよりはひとつのデータを見てみようという趣旨のものです。そのような前提で、勝利確率はひとつの参照点としては有用で面白いのではないかと個人的には思っております。



【お知らせ】
『デルタ・ベースボール・リポート1』発売中です。

目次

■セイバーメトリクス・キーワード解説
01 勝利と得失点
02 得点期待値
03 得点価値
04 攻撃を評価する指標
05 率・量・差
06 Batted Ball
07 投球を評価する指標
08 年度間相関
09 守備を評価する指標
10 UZRへのステップ
11 貢献の勝利換算
12 Plate Discipline
13 ハングタイム
14 1950~1970年代のNPB
15 1980~2010年代のNPB
16 セイバーメトリクス発展史

■REPORT
〈SABERMETRICS〉
状況に応じた打撃はどこまで可能か(市川 博久)
野手のタッチ技術―タギング試論(大南 淳)
WBCを通じたNPBと他国の投球傾向の比較(水島 仁)
指標の有用性をどう考えるか(蛭川 皓平)
千賀滉大・則本昂大両投手の三振に見る配球の文脈(Student)
守備範囲評価の複数年化(岡田 友輔)

〈ADVANCE〉
ボールの回転スピードだけでは球質を正しく評価できない(神事 努)
三次元的に配球を検証する(神原 謙悟)

〈HISTORICAL〉
「落合中日」の研究(竹下 弘道)
プロ野球移籍市場を探る(高多 薪吾)

UZRの基礎データを複数年でとることについて

『デルタ・ベースボール・リポート1』掲載の岡田さんによるUZRの複数年化の検討を読んでいます。データを見るとほどほどに結果の差がありますね。

岡田さん(デルタ)としての方向性は記事を読んでいただければわかりますが、ここでは自分なりの考えを書いてみたいと思います。結論から言えば、自分はかねてから「打球の基礎データは複数年でとって最終評価値は単年リーグ内ゼロサム」派です(過去の記事も参照)。

この問題は、例えば1ヶ月のプロ野球のデータだけから算出した得点期待値で計算したLWTSで打者の得点ポテンシャルへの貢献をうまく反映できるかという問題に似ている気がします。あるプレーが一般的なポテンシャルとしてこれだけの価値があるものである、というのを算出するためにはサンプルサイズが必要かなと。

例えばシーズン中にある種の難しい(より長いタームで見ればアウトになる確率が低い)打球が守備者Aのところにばかり集中して飛んで、Aがなんとかそれを全部アウトにしたとすると、その打球は簡単な打球と判定されてAには加点がない(少ない)ことになります。

それでいいんだという立場もあり得るかと思いますが(他の期間を見てどうだろうがそれがその期間の実態といえば実態ですから)、対象の選手が出場することによってチームが得た勝利ポテンシャルを評価するWAR的な観点からすればUZRはそこを加点して評価すべきと考えます。

より極端に言うと、1週間の結果的な守備貢献を評価しろと言われたとして、打球の基礎データも1週間のものを使うかという問題に置き換えてもいいかと思います。自分はこれを否定する立場です。そうすると話を1年に引き伸ばしたとしても、サンプルが足りないと思えば基礎データはもっと必要だという話になります。

1年間のプロ野球全体ですから打球の数はたくさんあるようにも一見思えますが、実際にはUZRでは打球を種類・位置・速度で細分化していきますからひとつひとつの「バスケット」に入る打球の数は1年では案外少ないです。じゃあ3年必要なのか5年必要なのか、という適切な期間の話はそれはそれでまた議論が要るかと思いますが。

結局はその時々の実態を反映させることとサンプリングの誤差を排除することとのトレードオフであって、WARの算出に関係するもので考えてみると得点期待値であれパークファクターであれ守備位置補正値であれ、サンプルを確保するために複数年のデータをとっているものはいくつもあります。自分はUZRの打球データも同じで1年では心許ないものだと思っております。

また、最終値のリーグ内ゼロサムはリーグ内で利得をやりとりして優勝を争っている以上当然かなと。

【告知】『デルタ・ベースボール・リポート1』

毎年発行されていて当方も執筆に参加しているセイバーメトリクスのリポートが今年も(時期はズレましたが)出ます。

タイトルはこれまでの『セイバーメトリクス・リポート』から『デルタ・ベースボール・リポート』に変わっておりますが、同じシリーズの最新作です。

プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1(Amazon)


内容紹介
「トラッキング技術の普及、打順にまつわる常識の転換、フライを打つことに対する評価の高まり……今、日本のプロ野球が加速度的な変化を始めている。野球の数理的な分析の球団運営への活用を先導してきたセイバーメトリクス(Sabermetrics)は、様々なテクノロジーと融合し次のステージへ向かう。この変革をリードする研究家たちの分析リポートを10本収録」




基本的な構成としてはこれまでと同じように各著者による分析リポート集という感じです。今日が発売日で先ほど手元に届いたところですのでじっくり読むのはまだこれからですが、現状目を通した冒頭のキーワード解説は他で読めそうで読めない「かゆいところに手が届く」内容が書かれていてよいです。

私は「指標の有用性をどう考えるか」という論考を書きました。数字を使った分析ではなく指標の解釈の仕方について考えてみるという読み物系の記事になっております。

セイバーメトリクスの世界にはものすごくたくさん指標がありますが、どの指標が使える指標なのか、それをどういった観点で整理するかというのは意外に難しい問題です。例えば「WARも完璧な指標ではないのにWARで議論をしていいのか」「OPSが打率よりも得点との相関が強いというがそれなら打点のほうが強い」「UZRは年度間相関が弱いから守備力を表していない」といった指摘に対してどう応えるか、議論をどう整理するか。その辺についての私見を述べました。

はじめに一般的な話をした上で記事の後半では特に「得点との相関が高いほど優れた指標であるという誤解」「年度間相関が高いほど優れた指標であるという誤解」「計算式がシンプルなほど現実に即していて優れた指標であるという誤解」という見出しでそれぞれの問題について議論しています。

その他の皆様のリポートも大変面白そうなので、これから読んでいこうと思います。

守備指標がさらされる目線

守備指標がさらされる目線についてふと考えて、ツイッターに書こうと思ったのですが長くなったのでこちらで。


守備指標の妥当性がいつも厳しい目にさらされるのは、指標自体の性質云々より、一般に守備について数字を結果として受け入れる慣習がないという要因が大きいと思います(そのことの良し悪しは別として)。

打率は.298と.300の差であっても、それが統計学的に見て注目に値するものでなかろうが、「彼が三割打者になるために足りなかったのは何か」などと、数字を結果として厳粛に受け止めたうえで中身は中身で考えるという慣習があります。

「阿部はすごく技術がある名打者なのに.250になるなんて、打率とかいう指標はおかしい」とは言いません。結果は結果です。

これに対して守備については何故か、プレーの内容としての上手い・下手の評価ありきで、指標の数字がそれに合わないと指標の中身が怪しまれます。打撃とパラレルに考えれば、(潜在的な)能力として上手いとされる選手であっても、ある期間の打球の処理の結果がたまたま芳しくないということがあっても「指標がおかしい」となる必然性はないはずです(スイングのいい打者の打率が低くても「打率が指標としておかしい」わけではないのと同じ)。もちろん、主観的な評価の方が適切である保証もありません。

言い方を換えれば、主観的には守備が上手いと思うのに指標の結果が悪い、というのは、矛盾する結果ではないので主観と指標のどちらかを否定する必要もなく、単にそれらがどのような関係にあるのかを整理すれば済む話です。くどいようですが強打者でも打率が低いシーズンがあっても矛盾ではないように。そもそも、守備指標は抽象的な意味での「守備力」を数値化しているわけではなく、基本的に一定期間の打球処理の結果を数値化しているに過ぎません。

どちらかというと、打率に関しては数字が意味のある結果として尊重されすぎており(セイバーメトリクス的にはBABIPに近い数字で選手ごとの一貫性が弱く、細かく注目する実益に乏しい数字です)、守備指標に関してはその逆、という印象です。

私はここで、守備指標は文句なく作られているのに見る側の受け取り方が悪い、と言っているわけではありません。指標の中身の精緻化は、それはそれで追求すべきです。

問題は、打撃指標と守備指標では受け取られ方が違い、そうである限りは「仮に守備指標が完璧に作られていても」文句がつくだろうということです。冒頭に述べたように良し悪しの問題ではなく、指標の中身の問題とそれの受け取り方の問題は分けて論点を整理したほうが混乱が減るように思います。


K-BBの参考記事

『セイバーメトリクス・リポート3』(今年の4月発売)に寄稿した「投手の成績を予測する簡単な方法」という記事で、(K-BB)/PAという式で計算できる指標(K-BB)の有効性について書きました。

これに関してはアメリカで先行研究があります。なのですが、紙面の流れ上、直接関連する記事を一部引用した程度であとは「一連の研究があります」という程度の記述に留まり具体的な記事の名前(URL)を挙げられませんでした。
このためちょっとしたオマケというか補足の意味で、私が参照した一連の記事を載せておきたいと思います。



日付著者タイトル
2012/9/19Glenn DuPaulShould we be using ERA estimators during the season?
2012/9/19TangotigerForget all that other bullsh!t: just use K and BB to forecast rest-of-season ERA
2012/9/26Glenn DuPaulOccam’s Razor and pitching statistics
2012/9/26TangotigerOccam’s Razoring pitching stats
2012/10/3Glenn DuPaulPredictive FIP
2012/10/3TangotigerPredictive FIP
2012/10/10Glenn DuPaulDelving deeper into predictive FIP
2012/10/18Glenn DuPaulShould we even try to predict future runs allowed for relievers?
2012/10/24Glenn DuPaulShould we ever use a complex ERA estimator?
2012/11/2Glenn DuPaulShould we be trying to predict FIP instead of ERA?
2012/12/12Glenn DuPaulReinforcing the power of predictive FIP
2012/12/21Glenn DuPaulLeaders in kwERA
2012/12/21TangotigerkwERA
2012/12/24TangotigerkwERA Awareness
2013/2/6Glenn DuPaulStandard deviation and ERA estimators
2013/2/20Glenn DuPaulMore on standard deviation and ERA estimators
2013/2/20TangotigerShould we prefer a spread in forecasts?


流れとしてはGlenn DuPaulがK-BBの有用性に注目してさまざまな試みをし、これ自体は実は新しい発見ではないのだけれども、あまり系統的に整理されてはいなかったので車輪の再発明を避けるという意味でも有意義なまとめをしてくれてるよねという観点でTangotigerが逐一コメント(で、そのコメントに対してまたGlenn DuPaulが発展的な分析を提示)しているような形です。

私がリポート3で触れたよりも発展的な内容(例えば予測のためのFIPとして、K-BBに本塁打の要素を加えたらどうなるのか)にも触れられていたりするので、それほど複雑な話ではないですしひとつひとつの記事は重くないので読むと面白いと思います(最後のpFIPの式はなかなか美しい)。


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野球全般好きで、プロ野球をよく見ますが特定の球団のファンではありません。
セイバーメトリクス(野球の統計的分析)の話題が多く、馴染みのない方にはわかりにくい内容があるかもしれませんがサイトに体系的にまとめています。

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