Baseball Concrete Blog

主にプロ野球について、セイバーメトリクス的な考えを交えながら好きなことを書いています。

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セイバーメトリクスQ&A(3)

あけましておめでとうございます。
最近更新のペースが鈍く、今年もあまり加速しそうにはありませんが、なんとかやっていきますのでよろしくお願いします。

さて、新年一発目は、相変わらず答えるほどの知識があるわけでもないのにQ&Aです。読んだ方が何かしら得るキッカケになれば、ということで、いただいた質問に加えて前に書いておいた自作自演の項目も加えて。

毎度の注意書きですが回答は私の理解・解釈であり、セイバーメトリクス界の一般的な合意を代表するものではありません。また、指標についての説明も必ずしも考案者の意見を反映するものではありませんのでその点ご了承下さい。






Q.「シークレットソース」とは?

A.Baseball Prospectus社が示したポストシーズンにおける重要な要素3つのことですね。
BPの分析では、ポストシーズンの成功に関係する基本的な要素は以下だとしています。

・投手の奪三振率
・野手の守備力
・クローザーの能力

Baseball Between the Numbersという書籍に収録されている論文では、まずポストシーズンの成功をポイント方式で定義し(大雑把に言えば勝っていくほどにポイント加算)、そのポイントとレギュラーシーズンの成績にどのような関係があるかを統計の相関分析によって見ています。
その結果、レギュラーシーズンの得点能力はポストシーズンの成功と相関がない一方、失点阻止能力は弱いながら相関があると示されています。
そしてさらに失点の阻止を内容別に見ていくと、被打率とクローザーの成績が特に相関しています。
最終的に安打を防ぐということを個別の働きレベルに分解すれば「投手が三振を奪うこと(そもそも打球を飛ばさないこと)」と「野手が打球をアウトにすること」に分けられる、というわけです。

何故これらの要素がポストシーズンにおいて相対的に重要になるか、ということに関しては完全にはっきりはしていません。
しかしBPの論文では、(短期決戦がどうというより)ポストシーズンでは「悪いチーム」はそもそも存在せず「攻撃が普通で守備が優れたチーム」と「攻撃が優れていて守備が普通のチーム」しかいないことを指摘した上で野球の攻撃が非線形の構造をしていること、投手の支配力などがその条件に関係してきて結果的な傾向が表れたのではないかという仮説が示されています。
クローザーについては、ポストシーズンは短期決戦であるためレギュラーシーズンに比べてクローザーを重用することができることからその能力が相対的に重要になるということは比較的に容易に説明できるのではないかと思います。

最後に注意事項ですが、いわゆる「シークレットソース」の3要素はレギュラーシーズンに比べてポストシーズンでは重要度が相対的に、微弱ながら高いらしいということが示されているにすぎず、ポストシーズンになったら急にこれらの要素が試合を支配するというわけではありません。言うまでもなく打撃も重要であり、重要度が相対的に少し下がるらしい、ということにすぎません。これらの3要素が優れていたとしても、それ以上に優れた打撃力を持つチームに対すれば当然ながら敗れる確率のほうが高くなるでしょう。
またBPの分析結果はいわゆる「スモールボール」の概念とは直接関係はなく、攻撃スタイルとしてはスモールボールがビッグボールに比べてポストシーズンに有効であることの有意な統計的根拠はないとされています。



Q.WARにおける守備位置補正の根拠は?

A.守備指標によって測定される守備位置ごとの格差です。
具体的には、FanGraphsのWARではTom Tangoが提出した補正値を基にしています。
この補正値の原則的な導き出し方は、複数の守備位置を守った選手の守備指標(UZR)の比較です。
例えば一塁手としてUZRが+4である選手が三塁を守ったときのUZRが-6である場合、三塁は一塁に比べて10点分難しいらしいということがわかります。一人の選手のサンプルでは何も言えませんがこのような例について大量のサンプルを集めてあらゆる守備位置同士を比較していくと、守備位置を移動したときに守備指標がどのように悪化するかの一般的な傾向がわかります。そのように集積したものが補正値となります。

意味をわかりやすく理解するための思考実験としては、守備位置というものに関係なく仮想的に「まったく平均的な野手」がいると考える方法があります。その彼があらゆる守備位置を一通り守っていった場合、全体としてのUZRは±0です。
ここで、彼が遊撃を守った場合、UZRは-7.5になります。遊撃守備はそれだけ難しく、一般的に優れた守備者が守っているということです。逆に一塁を守った場合+12.5となります。
これを実際の各守備位置の選手の側から見ると、異なる守備位置の選手達を「野手全体の平均」という一定の視座から平等に比較するためには、遊撃手のWARには7.5を足し一塁手のWARからは12.5を減じる必要があります。UZRをはじめ基本的に守備指標は各守備位置の平均と比較した数字を算出するものであり遊撃手は全体として±0となりますが、遊撃という守備位置そのものが野手全体(の平均)から見れば+7.5の価値があるからです。
このような補正は単に抽象的な意味での難易度を表しているわけではなく、実利的なものです。例えば平均的な遊撃手を失ったチームが平均的な野手でその穴を埋め合わそうとすれば、失点が理論的には7.5増大することになる、という具体的な損得の値を示しているからです。

算出に関してもう少し付け加えておきますと、実際にはサンプルの質・量の関係で守備指標だけでキレイに補正値を出すことは難しいです。そのため補正値の算出にあたって部分的に打撃指標を援用したり(FanGraphsの補正値にもおそらくこの性格があるかと)、そもそも守備位置ごとの打撃指標の差をもって守備位置補正とするということもWARの算出においては行われます。

蛇足ですが、補正値はさまざまなサンプルのばらつきを均した結果の漠然とした「一般的な傾向」に過ぎず、実際に選手を動かしたときにどうなるかは具体的なケースによるはずで、その点では守備位置補正はWARにおける最も大きな欺瞞のひとつであるかもしれない、と個人的には思います。10何点かポイントを与えて「補正」したとしても、捕手と外野手を同一の序列で比較するということがそもそもナンセンス、という立場もあり得るでしょう。もっとも、最初からあきらめるのではなく突き詰められるところまで突き詰めてこのように具体的なものを提示することには非常に意味があると思います。問題は、それをどう扱うかに関してはただ鵜呑みにするのではなくて指標の知識を持った上で適切に扱わなければならないということでしょう。



Q.守備指標って信頼できないよね?

A.「信頼」の意味によります。
こういう場合の「信頼」という言葉には、統計学的にはふたつの意味があると考えられます。
ひとつはその数字が測定したいものをきちんと表していること(妥当性)。例えば投手の球速の速さを測るのに「速い投手は三振が多いはずだ」と奪三振率を使うのは論理が飛躍しており、目的とする要素がうまく測れません。平均球速を用いるほうが妥当でしょう。
もうひとつは、その数字が少ない誤差で選手の能力を表すこと(信頼性)。例えば打者のBABIPは長期的には打者の安打を打つ能力を表すと考えられますが短期的には変動の大きい数字です。
さて守備指標ですが、とりあえず代表としてUZRで考えてみましょう。
まず妥当性ですが、これは問題ないと思います。打球をアウトにすることが守備の原則的な働きであり、それが主観的にどう評価されようが、多くアウトを奪って失点の阻止に貢献しているならそれで問題ありません。バイアスを避けるための多くの補正もあります。
次に誤差の意味での信頼性ですが、これが問題になる場合が多いでしょう。「UZRの数字は3年で見なくちゃいけない」などとも言われます。
しかし重要なのは、どんな指標でも「真の能力」に対する誤差はつきものということです。問題はそれが定量的にどれくらいなのかです。
守備指標に比べて信頼性が高いとされる打撃の指標(例えばOPS)でも、1年間で必ず打者の真の能力と数値がぴたりと一致するものではありません。
1年分のUZRは完全にダメだけど3年分のUZRならば急に完全に信頼できるようになるわけでもなく、1年分のUZRには1年分のUZRなりの、3年分のUZRには3年分のUZRなりの信頼性があります。
ですから信頼性がある・ないの二分割で考えるのはそもそも無理ですし不適切ということです。
指標の信頼性はサンプルの量に応じて、またそもそも何を言おうとしているかの目的に応じて考える必要があります。
守備については、守備指標で全てを正確に表すことは到底できないけれども、守備指標で語れることも多い、というのが私の個人的な立場です。



Q.セイバーメトリクスの戦術論って平均で語るから意味なくない? 実際には個別の事情が多様なわけだから。

A.さまざまな状況を踏まえた解析ももちろんあります。
塁・アウト状況別の得点期待値だけでなくイニングも変数に含めた勝利期待値などは戦術を考える上で活躍しています。
また、投手と打者の個別の力関係を勘案して個別の期待値を算出することも可能であり、犠打はどのくらい貧弱な打者の場合有効か、といった研究もあります。
ただし原則として統計は集団を対象とするもので、個別事例に適用しにくいのは事実でしょう。
しかしそれに関しても、ケースバイケースとばかり言っていないで平均や全体の傾向を知ることも大事だということは言えます。
平均した数字だから個別とは関係ないと言うときに、本当に平均で対応できないと検証されたのかどうか。長期的には「長期的にはこうなる」という傾向に当てはまることから避けられないのも事実です。
頭の中で根拠なく「これは平均とは関係ない」と思っているだけなのではないか、ということには注意が必要ではないかと。


Q.監督を評価する指標はないの?

A.現状、直接的かつ包括的に監督を評価する指標は存在しないと思います。
ピタゴラス勝率と実際の勝率を比較して「戦力的にはもっと勝てているはず」などの評価を行う向きが一部にはありますが、私はこの評価法が監督の評価として意味のあるものだとは考えていません。
また別のやり方は犠打や盗塁の数など個別の戦術の要素を抜き出して「成功率が低いのに盗塁をさせすぎている」などの評価を与える方法ですが、これも監督が総合的にチームにどのような影響を与えているのかを教えてはくれません。



Q.精神論を否定していいの?

A.セイバーメトリクスは取り立てて精神論を否定してはいません。
精神論で語られているような側面がスポーツにおいて重要であることはセイバーメトリクス愛好家も全く否定しないところだと思います。野球は人間が行うスポーツですから。
むしろ当たり前に重要であり、その問題は結果的に優れたパフォーマンスを残せたか(良い記録を残せたか)に収束することから、直接にそれを取り上げて議論する必要がないということではないでしょうか。
否定しているとすれば「なんでもかんでも精神論で語ろうとする姿勢」かもしれません。従来精神論や「数字で表せないこと」として語られてきたものが、実は数字で合理的に説明できる例は多いです。
あるいは「流れ」などについても、プレーしている選手がそれを重視するのは自由ですが、語られてきたような効果が実際には発生していないことが事実として証明できる例もあります。



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セイバーメトリクスQ&A (2)

前回の記事でセイバーメトリクスに関する疑問・質問を募集して、幸いなことにいくつか頂戴することができましたので、そのうちの一部に自分なりの回答を書いてみます(今回お答えできていないものもありますがいずれ書くつもりです)。

自分から呼びかけておいてなかなか時間がとれなくてレスポンスが遅く、申し訳ありません。前回同様、回答は私個人の考えによるものであり、セイバーメトリクス界の一般的な合意を代表するものではなく、また指標の考案者の意見を必ずしも反映するものではありません。セイバーメトリクスに詳しい方からの「いや、それはもっとこういう説明のほうが適切だ」というツッコミに関しても歓迎いたします。私がエラソーに知識を披露することではなく、セイバーに対する理解が広まることを目的としておりますので。



Q.盗塁成功率は何%くらいで損得が釣り合うのか?

A.全体的には70%程度ですが、ケースバイケースです。
MLBの研究では盗塁成功の得点価値は+0.19、失敗の価値は-0.44とされています。
損益がゼロとなる成功率をPと置いて方程式を立てると 0.19*P-0.44*(1-P)=0 であり、これを解くとP=0.698413。ほぼ70%です。
しかしこの得点価値はあくまで「一般的な」値、さまざまな状況での盗塁があり得る中でのいわば出現頻度に応じた加重平均値です。
例えば同じ二盗でも無死から走るのか一死から走るのか、2得点以上を期待したいのかそうでないのかによって実際には基準は変わってきます。
それらは得点期待値等を使って計算することが可能であり、SMR Baseball Labのコラム「盗塁の損益分岐」に詳しいのでご参照下さい。



Q.「9回を任せるクロ―ザーよりも、7回や8回のセットアッパーの方が大事」という説の根拠は?

A.試合における局面の影響度ではないでしょうか。鍵となる概念は、試合の局面ごとに見込まれるチームの勝利確率です。
結論から簡潔に言いますと、9回の守備の時点で一定のリードがあると、勝利確率的にはほぼ試合が「決まっている」ことが数理的な研究から明らかになっています。したがって、そこで優秀な投手を出そうがそうでない投手を出そうがその影響は(相対的に)小さいということになります。

米国で著名なセイバーメトリシャンTom Tangoらの『THE BOOK』は、リードした9回で平均的な投手に対して優秀な投手を出すことがどれだけチームの勝利確率を改善するかという計算を行っています。
まず、3点リードで9回の守備を迎えた場合、平均的な投手が投げたとしても守備側のチームが逆転されて負ける確率は4.2%しかありません。ここから平均的な投手に代えて優秀な救援投手を登板させても負ける確率は2.1%で、その有効性は2.1%ということになります。得られる勝利数の期待値に直せば、3点リードの9回に優秀な投手を起用することで得られる(追加的な)勝利数は0.021勝だと表現できます。
これを2点リード、1点リード、そして8回から優秀な投手を登板させた場合の1イニングあたりの数字まで範囲を拡大して見てみると、それぞれの局面での「優秀な投手を投げさせることによる効果」は以下の表のようになります。

イニング 1点リード 2点リード 3点リード
9回    0.063   0.038   0.021
8回    0.047   0.034   0.022

ご覧いただければわかる通り、9回はやはり重要なのですが、3点リードの9回に良い投手を注ぎ込むのであれば1・2点リードの8回に投入したほうが効果は大きい、ということが示されています。
局面の重要性と救援投手の問題についてはこのような見方だけでなく様々な論者が様々なことを言っていると思うので一概にこうとは言えませんが、セイバーメトリクス的にこの論点を見たときに重要なのは、9回は確かに大事だけれども7回や8回も同様かそれ以上に重要な場合も多いのであって「リリーフエースは9回のリードした場面で投入するもの」といった硬直的な考えを持つのは問題ではなかろうか、という視点を持つことではないかと思います。
一般的に言って、9回は競っているときには1プレーの重みが極めて大きいのですが、点差が開いているときには逆に物凄く小さくなり、その振れ幅が大きいことが特徴のようです。
「野球は9回2アウトから」とは言っても、やはり点差があってあと1アウトでゲームセットなら確率は低いよね、ということを統計は冷静に扱います。



Q.セイバーメトリクスで進塁打というのは評価されるのか?

A.評価される指標もあればされない指標もあります。
はぐらかした答えのようにお感じになるかもしれませんが、一口にセイバーメトリクスといっても野球の世界を計数的に捉えようというテーマの中で様々な試みがあり、目的も多様です。目的が違えば合理的な方法も異なり、違うやり方でもそれぞれに適切な評価となります。まずこの点をおさえていただきたいと思います。

セイバーメトリクス的に言うと進塁打については状況に依存する結果であるという点がその性格上重要なところで、これをどう考えるかで進塁打に対する態度が変わってきます。
セイバーメトリクスで一般的に打者を評価する場合(具体的にはRCやOPSとお考え下さい)、打者が打席に入ったときの状況がどのようなものだったかに影響を受けないよう安打や四球など単体の結果で評価をすることになっています。打点がついたかどうかなどは、同じ打撃内容でも打席に入ったときの状況によって大きく影響されるものであり個々の打者同士を比較するには不公平になるという考えです。
進塁打も打者が打席に入ったときに走者がいるからこそ打てるものであり、走者がいるかどうかはその打者の問題ではありませんから凡打が進塁打かどうか、ということは基本的には考慮されません。凡打は凡打と扱われます。
セイバーメトリクスの打者評価といえばRC系が多いことを考えると、セイバーメトリクスは基本的には進塁打を評価しない、というのが雑に言ったときのご質問への答えになります。

一方で、要因ともかくとしてその状況そのものの変動、それがもたらす勝利への影響を捉えることを重視する指標もあります。代表的なものがWPAと呼ばれる、打席の前後で確率論的に計算される「チームの勝利確率」がどのように変動したかを計測するものです。
例えば打者が無死一塁で打席に入った場合、RCで評価をするならば、走者を進塁させないフライに倒れようが、進塁打を打とうが評価は変わりません。
一方WPAでは局面の変化が重要で、後者のほうが当然チームにとっては好ましい状況であるため、走者を進めないよりはプラス評価されることになります。
WPAはプレーの価値を平均化して「その瞬間の試合の動き」を排除したRCなどに比べて試合のダイナミズムを描写するものとして広く用いられる指標であり、この意味ではセイバーメトリクスには進塁打の価値を包括する評価がしっかりと存在し親しまれている、と言えます。
なおWPAとRCは最初に申し上げたように目的が異なるものであり、どちらが優秀というものではありません。

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管理者:クロスケ

野球全般好きで、プロ野球をよく見ますが特定の球団のファンではありません。
セイバーメトリクス(野球の統計的分析)の話題が多く、馴染みのない方にはわかりにくい内容があるかもしれませんがサイトに体系的にまとめています。

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