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Baseball Concrete Blog

主にプロ野球について、セイバーメトリクス的な考えを交えながら好きなことを書いています。

打率を見ることの追加的な情報価値

「セイバーメトリシャンは打率をないがしろにしすぎではないか? たしかに得点との相関関係はOPSより弱いが、OPSが同じなら打率が高いに越したことはないはず。価値が無いかのような扱いはやりすぎであり、むしろ新しい指標に偏重して頭がおかしくなっている」

というような指摘は昔からよくなされているところです。

これについてTom Tangoは最近も「出塁率・長打率がある前提なら打率は重要じゃない」旨のコメントをしています。

たしかに打率しかスタッツがなければ打率を見ることにも意味はある(というかそうするしかない)のでしょうが、問題は出塁率・長打率が公式記録で存在するのになお打率を見ることにどの程度意味があるのかです。下のような2人の打者がいれば打率が高いAをより高く評価するのが一見自然なようにも思われますが、どうなのでしょうか。

A 出塁率.350 長打率.500 打率.300
B 出塁率.350 長打率.500 打率.240

すごくラフですがちょっと分析してみます。

まず様々な打撃成績のサンプル(なんでもいい)として、2022年NPBで100打席以上の打者を抽出します。
これらの打者に対して「打撃成績の得点への影響をきちんと表す指標」の例として加重出塁率(wOBA)を算出します。

加重出塁率=(0.7×(四球+死球)+0.9×単打+1.3×二塁打+1.6×三塁打+2.0×本塁打)÷(打数+四球+死球+犠飛)

加重出塁率によって得点への影響の測定はきちんとなされていると仮定して、これに迫る上で打率を見る意味はあるのでしょうか。
まずは出塁率と長打率で加重出塁率を目的変数として回帰分析を行い、説明力を見ます。

回帰式 0.0126+0.3250×長打率+0.5513×出塁率
決定係数 99.88%
※ほぼ一直線なので散布図省略

打率を説明変数に加えてもう一度回帰分析を行い、説明力が上がるのかを見てみます。

回帰式 0.0132+0.3268×長打率+0.5681×出塁率-0.0263×打率
決定係数 99.89%

ほとんど変わりません。つまり、どれだけ得点の増加に貢献する打撃をしているかを評価する上では、出塁率・長打率に加えて打率を見る意味は乏しいことになります(むしろ回帰式からすると出塁率・長打率が同じなら打率が高いほど加重出塁率は低いことになります)。

前述の通り一見すると出塁率・長打率が同じなら打率が高いに越したことはないような気もしますが、出塁率との対比では打率が高いほど四球ではなく安打が増えるものの、長打率との対比では打率が高いほど長打が減ることにもなるため、出塁の内容を評価してみると一概には言えないようです。

上記はあくまで得点価値(Value)の説明という観点です。内容的に言うと打率はBABIPに近い動きをする指標でもあるため、打率が高いことによってOPSが高い打者はLuckの寄与が大きい傾向にあると言えるでしょう。そういった観点では、(高い方がいいかは別として)打率が出塁率・長打率にない情報を持っているとは思います。

「二刀流から守備位置補正を考える」(デルタ・ベースボール・リポート6)

先日発売した『デルタ・ベースボール・リポート6』に「二刀流から守備位置補正を考える」という論考を寄稿しました。

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“世界標準”に向かった日本野球。その背景にあるもの――

世界一の座を奪い返した野球日本代表。その野球は、時に「日本らしさ」と解釈されることもあったスモール・ベースボールとはかけ離れた、強く振り、強く叩き、よく出塁する世界の潮流を意識した非常にモダンなものだった。そんな新たな野球像の礎にもなっている統計的視座からの野球研究=セイバーメトリクス等を用いた野球の科学的な論考10本を収録。

内野前進守備を敷くべきか?(中原啓)
阪神タイガースのエラーと甲子園での守備(佐藤文彦)
クライマックスシリーズファイナルステージの非対称性(市川博久)
投球障害リスクのペンタゴンとスポーツテックへの期待(馬見塚尚孝・豊田太郎)
二刀流から守備位置補正を考える(蛭川皓平)
投手リプレイスメント・レベルの再検証(二階堂智志)
得点に至る順序と走塁の価値について(神原謙悟)
捕手のリードは利得を創り出せるのか?(道作)
球質以外の視点も含めたストレートの分析(並木晃史)
ピッチトンネルを打者視点で評価する(宮下博志)

Topics
WBCを制したどの国よりもモダンで“日本らしく”ない野球



記事を執筆した契機はタイトル通り大谷翔平の二刀流議論です。大谷が投手兼DHとして出場しているときにWARの計算においてDHの守備位置補正を適用するので正しいのか、といった点について論じました。

結論は目新しいものではないですが、個人的には結論に至る理由付けの部分がネット上の議論を見ていても腑に落ちない部分があったためそのあたりをWARの原理原則に立ち返って検討することを趣旨としています。

こうした検討を行いたいと思った背景にはネタ同人誌『ほとんど無害なセイバーメトリクス』に記載した野球構造図があります。

baseballstructurediagram.png

この野球構造図では選手の働きとチームの勝利の関係が表されています。私は大谷を巡る議論を眺めていて、特段大谷の特殊性に着目しなくてもこの図で選手を入れ替えて勝利数の差分を測ってみればWARが出せるはずだ(それと照らし合わせれば適切な計算方法が自ずとわかるはずだ)という気持ちをずっと持っておりました。
こうした図を持ち出すまでもなく誰もが似たような検討を暗黙のうちに行っているはずですが、具体的なモデルが念頭にあると話がわかりやすくなります。

もちろん入れ替えるときにどのようにチーム成績が変化するかが書き込まれているわけではないのでその点は改めて向き合って検討する必要があります。むしろその過程で、人々が何を暗黙の仮定として議論しているのかを浮き上がらせることができるのではないかと考えました。

選手を入れ替えるとどうなるのかを考える思考のツールとしては以前Twitterに書いた思考実験(?)を使いました。

baseballconcrete @bbconcrete 2022年10月24日
守備位置補正について考え続けて、「野球部のない高校で、適当に学生を9人集めて野球部を作るとする」といった想像に思いを巡らせている。


baseballconcrete @bbconcrete 2022年10月26日
「プロ野球は9人の野球部ではない」という重大な事実がわかった。



いささか荒唐無稽に見えるかとためらいはありましたが結局記事にそのまま書いています。原始的なレベルから出発することで、二刀流がどうこうということではなく、「そもそもWARのロジックってこういうものだから、それからしたら、大谷の扱いがこうなるのは当然だよね」という筋道が自分の中で一応整理できたように思います。

また大谷の問題を含む守備位置補正についてのトム・タンゴの議論は改めて読み返し、一覧として収集したので前回の記事にアップしています(手動で彼のブログをずっと見て行って収集したものなので漏れがない保証はありません)。

本稿の前提となる守備位置補正の基礎については「守備位置補正の検討」(デルタ・ベースボール・リポート3)で議論しています。

Tango on Positional Adjustments

Here you go.


Friday, September 23, 2022 How much can the value of a two-way player add over two one-way players?

Thursday, September 15, 2022 Rounding Error in WAR of (prima facie) roster flexibility of Ohtani

Friday, April 29, 2022 Statcast: Three reasons for positional adjustments - Reason 3

Tuesday, April 26, 2022 Statcast: Three reasons for positional adjustments - Reason 2

Monday, April 25, 2022 Statcast: Three reasons for positional adjustments - Reason 1

Tuesday, December 28, 2021 CoreWAR: Positional Values

Wednesday, June 24, 2020 Common baseline for Fielders

Sunday, August 26, 2018 Zero-point of positional adjustments (part 5 of 6)

Sunday, August 19, 2018 Zero-point of positional adjustments (part 4 of 6)

Sunday, August 19, 2018 Zero-point of positional adjustments (part 3 of 6)

Saturday, August 18, 2018 Zero-point of positional adjustments (part 2 of 6)

Saturday, August 18, 2018 Zero-point of positional adjustments (part 1 of 6)

Sunday, April 08, 2018 Ohtani, WAR and the positional adjustment

Tuesday, October 24, 2017 Fielding Positional Adjustments, part X of N

Tuesday, May 26, 2015 Update to the fielding spectrum run values?

Tuesday, October 28, 2014 WAR theory, part 3: explaining the DH adjustment

Monday, October 27, 2014 Positional Adjustments: any updates?

Wednesday, September 10, 2014 WAR theory, part 2: role of positional adjustments

Wednesday, July 23, 2014 Does WAR not give enough credit to catchers?

Monday, June 09, 2014 Misconceptions of the positional adjustment

Monday, November 04, 2013 Adjustments by Fielding Position

Friday, September 13, 2013 Don’t compare UZR among players of different positions without doing the positional adjustment


Monday, June 24, 2013 Fielding positional adjustment.

Thursday, March 21, 2013 Positional adjustments

Thursday, June 21, 2012 How much are GMs paying for the positional adjustments

Wednesday, June 06, 2012 Positional Flexibility

Thursday, April 05, 2012 FAT-level based fielding spectrum

Thursday, September 29, 2011 Do teams put the better fielder at 2B or 3B?

Friday, March 11, 2011 Using WOWY and positional switchers to determine the fielding value of each position

Monday, February 28, 2011 Fielding spectrum

Thursday, January 20, 2011 More DH and fielding

Wednesday, November 24, 2010 Replacement fielders

Thursday, September 30, 2010 WAR v MVP spectrum

Wednesday, September 08, 2010 Fielding spectrum values

Monday, December 07, 2009 Dual positions

Monday, September 14, 2009 CF talent

Wednesday, September 08, 2010 Fielding spectrum values

Wednesday, September 08, 2010 Constructing fielding spectum values

Wednesday, August 12, 2009 Chance of injury by playing out-of-position

Friday, February 26, 2010 Positional Adjustments Primer

Friday, February 06, 2009 Paradox of the DH adjustment

Monday, February 02, 2009 Replacement level catchers

Friday, January 16, 2009 2B v 3B v CF

Tuesday, December 23, 2008 Dual Positions, using bUZR

Saturday, December 20, 2008 And more on positional adjustments

Thursday, December 18, 2008 2B v 3B

Tuesday, December 09, 2008 Primer on: The need for the positional baseline

Monday, December 08, 2008 Bill James does positional adjustments

Wednesday, November 19, 2008 Offense by position groups by decade

Friday, October 24, 2008 UZR positional adjustments, revised with 2008 UZR

Friday, September 19, 2008 2B v 3B

Friday, September 19, 2008 Fielding differences in the positions, take 2

Wednesday, August 06, 2008 Fielding differences in the positions

Monday, July 14, 2008 Average Payroll per Position

Friday, January 04, 2008 UZR positional adjustments

Monday, February 05, 2007 Defense Spectrum

Friday, June 16, 2006 Fielding Positional Adjustments, Part 2

Tuesday, June 06, 2006 Fielding Position Adjustments

OPSを(いささか強引に)得点換算する方法

セイバーメトリクスの文献を読んでいて、特にひと昔前の分析だと「特定の状況下に条件を絞った場合、OPSは.730から.745に上昇する」といった形で結果が示されている場合があります。

OPSの不便なところで、そう言われても得点の意味でどれだけのインパクトがあるのかわかりません。そこで数字の遊びとして指標に関する基礎的な知識からOPSの差を(いささか強引に)得点換算する方法を考えてみます。

【前提とする情報】

OPS = SLG + OBP
wOBA = ( SLG + 2 * OBP ) / 3 = SLG / 3 + OBP / 1.5
RAA/PA = ( wOBA - lgwOBA ) / 1.15
lgSLG = .400
lgOBP = .330



特に便利に使いたいのは( SLG + 2 * OBP ) / 3でwOBAがだいたい近似できるとする式です。wOBAがわかればwOBAscaleで割り返せば得点に換算できます。

まず、OPSの1ポイント(.001)の変化は、平均的な長打率・出塁率の比率で分解すれば、
400 / ( 400 + 330 ) = 0.5479ポイントの長打率の変化と、
330 / ( 400 + 330 ) = 0.4521ポイントの出塁率の変化に分けられます。

そしてこれをwOBAに直すためには
長打率の分は 0.5479 / 3 = 0.1826
出塁率の分は 0.4521 / 1.5 = 0.3014
合わせて 0.1826 + 0.3014 = 0.4840 すなわちOPSの1ポイントはwOBAの0.484ポイントに相当することがわかります。

さらにwOBAの増減の得点へのインパクトはwOBAscaleの1.15で割り返すことによって求められますから、最終的にOPSが1ポイント変化すると打席あたりの得点は 0.4840 / 1.15 = 0.4209 だけ変化することになります。

例えばOPSが平均より.100高い打者は600打席で25点の差となり、結果はざっくり経験則と一致しています。

ただしこれは出塁率と長打率の比が平均的な水準に近いことを想定しており、OPS1.000の打者などは通常長打率の比率が高まるため、そういった打者のRAAを求めるのには適していません。

あくまでも集合別・条件別のOPSなどの微妙な差についてだいたいのインパクトを知るために用いるのが向いていると思われます。

こうした対応関係は例えば実際のデータからOPSとwOBAの対応関係(回帰の傾き)を計算していっても求めることができますし、いっそ経験則的に「OPSが平均より.100高い打者のRAAは年間+20くらいだから、.010の差なら10分の1で2.0」などとアプローチする方が認知的にはわかりやすいかもしれませんが、データを見なくても推量することができるというひとつの小ネタとして。

佐々木朗希とDIPS

2試合連続完全試合をやりかけた佐々木朗希。

パフォーマンスが高すぎて、セイバーメトリクスの投手評価指標で最も基本と言ってもいいFIPに成績を当てはめると-0.32という結果を返します。

FIP = ( 13 * HR + 3 * ( BB - IBB + HBP ) - 2 * SO ) / IP + 3

これをもって「セイバーメトリクスでは計り知れない才能」「セイバーメトリクスをぶっ壊す投球」といった驚嘆の材料とすることも可能ではありますが、失点数が負の値というあり得ない結果が起こるのはFIPが線形加重方式の計算式で、平均的な値を基準に近似するような性格を持っていることに起因しています。

成績が大きく平均から離れると計算結果が崩れるのはわかった上で計算の簡便さをとっているのであって「数字ではうまく説明できない」「解析不能」とかそういう話ではありません。

対処法として、守備から独立した投手成績を乗算方式の得点推定式に放り込むことでDIPSを計算する方法があります。こうして計算すると佐々木朗希のDIPSは0.66となり、きちんと正の値になります(適切に計算してこそ、極めて異常な値であると実感させられますが)。

FIPは基本的にうまく機能しており、加算モデルの頑健さを感じるところではあります。が、やはり投手に関して乗算モデルが魅力的だという気持ちは捨てきれません。

以上つい触れたくなってしまう得点推定式ネタでした。


関連記事:
得点の構造と出塁率

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管理者:クロスケ

野球全般好きで、プロ野球をよく見ますが特定の球団のファンではありません。
セイバーメトリクス(野球の統計的分析)の話題が多く、馴染みのない方にはわかりにくい内容があるかもしれませんがサイトに体系的にまとめています。

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