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主にプロ野球について、セイバーメトリクス的な考えを交えながら好きなことを書いています。

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短期決戦とスモール(ベース)ボール

初戦の勝利に安心しつつ、WBC開幕に寄せて、というわけではないですが……どうしても気になってしまったので(試合開始前に)殴り書きしたもの。ちょっと長いです。観戦が一息ついたときにどうぞ。




セイバーメトリクスと短期決戦の関係についてはわけのわからない誤解が多いと感じます。何故かよく聞くものに、セイバーメトリクス的なチーム作りはポストシーズン(短期決戦)に弱いという説があります。

これ自体は『マネー・ボール』本編でも触れられていて、別にそういうわけじゃない(少なくとも積極的な根拠はない)というのは普通に読めばわかると思うのですが、何故かそう素直に理解されていません。ビリー・ビーン自身の「短期決戦の結果は知ったこっちゃない」的な発言が「セイバーメトリクスは短期決戦には通用しない。そしてそのことは利用者自身認めている」と妙に拡大解釈されている感があります。もちろんビリー・ビーンの発言は、短期決戦ではセイバーメトリクスの影響が変わるということではなく、試合数が少なすぎて実力が反映されないから結果はほとんどランダムであり負けても仕方がないというごく単純な意味でしょう。

出塁率・長打率を重視するセイバーメトリクス的な戦略に対して、何故か短期決戦は積極的に犠打や盗塁をして「確実に」点を取るべきだという、いわゆるスモール(ベース)ボール的な戦術が強く主張されます(あえてスモールボールの定義は置いておきます)。今回のWBCにあたっても、そういう種類の主張を実際に耳にしました。しかし統計的には盗塁や犠打は特に確実な戦術というわけではありません。

普通に考えれば、一試合において勝率の期待値を高めることができる方策があるならそれを繰り返せばレギュラーシーズンでも有効ですし、レギュラーシーズンを通して勝率の期待値を高める方策が一試合単位で見たら逆に期待値を下げる、などということはおかしな話です。短期と長期で有効か無効かが変わると考えるにはかなり特殊な理屈が必要でしょう。自然に考えられるのは、戦略/戦術と言えるかは微妙としても「優秀な投手の集中的な起用」くらいでしょうか。

また、有名な研究のひとつにポストシーズンの「シークレット・ソース」というものがあります。これは米国のセイバーメトリクス系シンクタンクBaseball Prospectusが出版した『Baseball Between the Numbers』に収録されている論文に書かれているのですが、ポストシーズンでは以下の3つの要素が重要だとする説です。

・クローザーの貢献度
・投手の奪三振率
・守備力

なんとなくポストシーズンは特殊であることを示しているようで面白かったり、打撃ではなく守りを重視していることからスモールボールっぽく見えて日本人に馴染みがいいのかセイバーメトリクスのコンセプトの中では認知度の高いのシークレット・ソースですが、取り扱いにはかなり注意が必要です。

まず前提として、分析者はポストシーズンの成功とレギュラーシーズンの各種指標との相関性を分析したわけですが、示されている3つの要素とポストシーズンの成功との関連性というのは定量的には決して強くはありません。過去のデータを網羅的に調べてみたら一部の項目に多少の相関が見られた、という種類のリサーチです(分析者の発言によって真理が左右されるわけではありませんが、当該リサーチを行ったネイト・シルバーも後日の談話であれは構造的に意味のあるものではなく過去のデータにたまたま見られた傾向かもしれない、ということを言っています)

あくまでも得点が多く取れて失点が少ないほうが良いというレギュラーシーズンもポストシーズンも関係ない一般的な大原則が前提にあって、さらに顕微鏡を通して細かく見てみたらシークレット・ソースの3つの要素がちょっとだけ重要かも、ということです。まずは常識的な大原則があるということを忘れるわけにはいきません。例えばシークレット・ソースの要素に優れている得点率4.5・失点率3.5のチームとそうでない得点率5.5・失点率4.0のチームであれば、普通に後者の方が(得失点差が大きい分)ポストシーズンにおける勝利の見込みが高いということはあり得ます。仮にポストシーズンを見据えてシークレット・ソースを重視したチームを編成してもトータルの得点・失点が悪ければ本末転倒になりかねません。

そしてまた重要なことに、シークレット・ソースは攻撃における戦術(?)のスモールボールとは関係がありません。『Baseball Between the Numbers』の論文にも、スモールボールがビッグボールに比べてポストシーズンに有効であることの有意な統計的根拠はないとはっきり書かれています。

チーム編成として失点の少なさを重視するスタイルを含めてスモールボールと呼ぶなら、俊足・小型の野手が多くなりそれに伴って攻撃面で犠打や盗塁が増えるということであれば結果的な関連性はあるかもしれません。しかし攻撃面だけを切り取って見てみると、盗塁や犠打で得点を「作り出そうとする」スタイルも、四球や本塁打で「点が生まれるのを待つ」スタイルも、どちらがポストシーズンで有効ということはなかったのです。

シークレット・ソースの論文ではポストシーズンでは(レギュラーシーズン)の得点が多いことよりも失点が少ないことのほうが重要だという解析結果が示されているわけですが、そうなる理由についてはレギュラーシーズンに対するポストシーズンは相手に「弱いチーム」が存在しないこと、打撃力に対して得点力が非線形の関係を持っていることが関係しているのではと推測されており、これは長期か短期かとは別問題です。「短期決戦」だと特別に守り抜く野球が重要になるといった要素があるとわかったわけではありません。正確かはわかりませんが、守りの重要性が上がるというより得点力はレギュラーシーズンの得点数で評価するとポストシーズンの条件に当てはめるには過大評価になる、というイメージでしょうか。

そもそもポストシーズンに限らず失点が少ないほうがいいのは当たり前で、それに関してはリソースの分配に気を配る必要のない国際大会では攻撃と関係させて考える意味はないでしょう。

「日本は長打力では他の国にかなわないから犠打と盗塁でつないで点を取る日本らしい野球で攻めるべき」という主張を未だに本当に聞きますが、この主張が思い込みや詭弁という以前に意味不明ということは説明不要だと思いたいです。日本の打線が犠打や盗塁を重視するかは、そうする場合とそうしない場合とでどちらが日本打線の得点の期待値が高まるかによって判断されるべきであって、他国の打線の長打力は関係ありません。




短期決戦は試合数が少なくて結果がランダムに大きくゆだねられることは、セイバーメトリクスの有効性でなくなることを意味しません。
スモールボールを失点の少なさを重視する戦略だとしても失点は少ないほうがいいのは当たり前で、攻撃における戦術の選択の議論とは原則的に関係ありません。
短期決戦で犠打・盗塁を積極活用するチームが強いという統計的に有意な傾向はありません。
シークレット・ソースもスモールボールとは直接関係ありません。



ちょっとセイバーメトリクスと短期決戦の関係が変に捉えられすぎている、シークレット・ソースに関しては誤解されているか影響力が過大評価されていると感じたので書いてみた記事でした。ちなみに、シークレット・ソースの研究を批判しているわけではないですよ。むしろ面白い研究だと私も思うのですが、話として面白いからこそ受け取る側は印象が大きくてその定量的な影響を過大評価しがちで注意が必要だと思います。

また、価値観として犠打や盗塁が嫌いなわけでもなんでもありません。プレーとしては盗塁を見るのは特に好きですし。ただ事実が事実として普通に評価されないのはどうなのだろうと思います。


※最後に、もちろんこういう話は、詳細には、日本でいうスモール(ベース)ボールが明確に定義されないことには議論しようがないです。


コメント

短期決戦だと結果が即最終目標なのでちょっと感情的になっちゃうんですよ。
優勝した!ワーイワーイって状態の時に「期待値が~」とか言われるとカチンとなってついムチャな否定をしちゃいます。
ごめんなさい。
レギュラーシーズンだとそんなこと無いんですけどねえ。

>ぱらぼらさん

こちらとしても感情の部分を云々する気はないですよ。何を問題にしているかという視点が違うだけだと思います。
あえて言えば、結果が大事というならそれこそできるだけ客観的に戦術を評価して少しでも勝利の見込みを高めるべきではとか単なる統計的な傾向の話なのにやたらと予断のある感情的な議論になりがち、という議論の不思議な構造に興味はありますが、「盗塁と犠打の日本らしい野球のおかげで勝った!」と喜んでいる人のブログへ行って「期待値下げてるよ」とコメントする趣味はありませんし。

初めまして。いつも楽しく拝読させていただいております。
「盗塁と犠打が有効」という心理の根底にあるのは「併殺は嫌」ということなのかなぁと、昨日の鳥谷選手の併殺の時に思いました。
犠打や盗塁が成功した時に作られるチャンス、ピンチの場面に強い・弱いも含めて、全て心の部分のお話なのかなぁとも。

犠打がそんなに有効ではないことは長年貧打球団を応援していれば分かるんですけどね(笑

>哲さん

はじめまして。よろしくお願いします。
併殺を避けたいというのは心理的に大きいところですよね。
トータルの損得を考えろというのは議論としては当然のことでも、併殺を目の当たりにするのはやはり嫌ですからね。

議論は飛躍してしまうかもしれませんが、心理的なことについて言えばバントをすることで「できることはやった(点が取れなかったら「あと一本が出なかった」だけで仕方ない)」と思いたいのではと感じることも多いです。
守備とかももはや「正しいとされている形でのプレー」をすることが目的化していて、勝つために失点を少なくしたくて打球を多くアウトにする、という当たり前の目的を果たせているかをあまりちゃんとチェックしていない気がするというか(そんなことはない、というなら個人的にはUZRくらい当たり前の指標として受け入れてほしいです)。

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野球全般好きで、プロ野球をよく見ますが特定の球団のファンではありません。
セイバーメトリクス(野球の統計的分析)の話題が多く、馴染みのない方にはわかりにくい内容があるかもしれませんがサイトに体系的にまとめています。

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